はじめに|放置子との出会いから考える
こんにちは、いろどりゆたかです。
私の娘が小さい頃、よく近所の公園に遊びに行っていました。ある日から、いつも同じ時間に一人で遊んでいる子がいることに気づきました。ブランコで遊んでいると近づいてきて話しかけてきたり、場所を移動してもずっとついてくるような様子。
「この子のママやパパはどこにいるんだろう?」
「なぜいつも一人なんだろう?」
そんな風に感じた記憶があります。
そして最近、こんな相談を受けました。
「近所の子が、毎日学校が終わると勝手に家に入ってきてしまうんです。冷蔵庫を開けてアイスやお菓子を勝手に食べてしまって…。その子の親とも会ったことがなく、連絡先も知らない。断るにも子ども相手だから、どう伝えたらいいかわからなくて。しかも子どもと遊ぶわけではなく、私に話しかけてくることが多くて、どう接すればいいのか困っています。」
これは、いわゆる「放置子(ほうちご)」と呼ばれる子どもの一例かもしれません。
私たちが日常で出会うかもしれない“サイン”に、どう向き合えばいいのでしょうか?
今回はこの「放置子」というテーマについて、深く掘り下げてみたいと思います。

放置子とは?
「放置子(ほうちご)」とは、本来なら親や保護者が見守るべき時間や場面で、適切な関わりがないまま放置されている子どものことを指します。
放置子に見られる特徴
- 学校外での居場所がない
- 食事を家でとらせてもらえない
- 近隣の家に入り浸る(いわゆる「家に上がりこむ」)
- 衣類や衛生状態が不十分
- 大人に構ってほしくて過度に話しかける
なぜ放置子が増えているのか?現代社会の背景
① 共働き・ひとり親世帯の増加
- 厚生労働省の「令和4年版 厚生労働白書」によると、非農林業に従事する雇用者の共働き世帯数は1980年の約614万世帯から2020年に約1,240万世帯へと倍増し、従来型の「男性雇用者+無業の妻」世帯(専業主婦世帯、2020年:約571万世帯)の約2倍にまで拡大している
- 保護者が長時間働き、子どもに目が届かない状況が増えている
- 母子家庭では、生活のため複数の仕事を掛け持ちするケースも
② 地域のつながりの希薄化
- 「地域で子どもを育てる」意識の希薄化
- マンションや賃貸では、隣人関係が浅く、子どもの様子に気づきにくい
③ 親自身の育ちと愛着形成の問題
- 親が幼少期に十分な愛情を受けず、関わり方がわからない
- 他者との境界線が身についておらず、子どもにもその影響が
放置子に見られる行動の特徴
- 他人に過剰に懐く、距離感が極端に近い
- 食べ物やお金への執着が強い
- 家に帰りたがらない、帰る場所がない
- 衛生面に問題(服が汚れている、風呂に入っていないなど)
これらの行動は、「安心」「栄養」「愛情」など、基本的なニーズが満たされていないサインかもしれません。
放置子が抱えるリスク
- 発達への影響:学力の遅れ、情緒不安定
- 対人関係の問題:境界がわからずトラブルになりやすい
- 非行・犯罪への巻き込まれ:夜間徘徊、SNS被害など
- 心の傷:自己肯定感の低下、愛着障害など
放置子を守るために、大人ができること
① 子どもの「居場所」をつくる
子どもにとって「安心して過ごせる居場所」は、家庭だけではありません。
特に放課後や休日、家にいても誰もいなかったり、気持ちが落ち着かない環境にある子にとっては、地域の中にもうひとつの“自分の居場所”があることが、心の安定につながります。
たとえば――
- 子ども食堂では、栄養ある食事だけでなく、見守ってくれる大人や、他の子どもたちとの交流があります。
- 学習支援教室では、学校の勉強についていけない子や、家ではなかなか集中できない子が、静かに学ぶ時間を持てます。
- プレーパークや公園の地域活動では、自然の中で思い切り遊びながら、社会性や創造力を育めます。
- 学校の放課後教室や公民館の開放も、安心して過ごせる“帰る前のワンクッション”のような役割を果たしています。
こうした居場所には、家庭とは違う「安心感」や「信頼できる大人との出会い」があります。
そして何より、「ここにいていいんだ」と子ども自身が感じられることが何よりも大切です。
② 境界線を学べる環境を整える
子どもは、「して良いこと・いけないこと」を自然に理解できるわけではありません。
教えてくれる人、経験できる場があってこそ、少しずつ身についていくものです。
でも、家でその役割を果たせない状況――例えば、親が忙しくて話す時間が取れなかったり、そもそも大人自身がその境界を知らない場合もあります。
そんなときこそ、家庭の外に“もうひとつの学びの場”があることが大切です。
- 地域の居場所や活動(子ども食堂・放課後教室など)では、大人が「それは困るよ」「こうしたらいいよ」とやさしく伝える機会があります。
- 子ども同士の遊びや関わりの中で、“順番を守る”“謝る”といった社会のルールも、自然と学べるのです。
こうした場に繰り返し関わることで、子どもは“人との適切な距離感”や“自分の行動の影響”を知り、「自分ってこれでいいんだ」と思える自己肯定感も育っていきます。
「叱る」よりも「気づかせる」。
そんな関わりができる大人や、そういう関係性が生まれる場を、ひとつでも多く増やしていきたいですね。
③ 家庭への支援体制を整える
「子どもを支えたい」と思っても、現実にはうまくいかない場面があります。
なぜなら――子どもに関する決定権は、ほとんどが保護者にあるからです。
子どもが「居場所に行きたい」「誰かと話したい」と願っても、
親が「そんなのダメ」と言えば、その願いは届きません。
ときには、私たちが“当たり前”と思う価値観が、家庭の中では通じないこともあります。
「うちの子に問題なんてない」「うちは余計なお世話はいらない」と、支援や関わりを拒まれることもあります。
こうした状況に向き合うには、親を責めるのではなく、“支える”という視点が必要です。
- 子育て相談窓口や家庭訪問を通じて、少しずつ信頼関係を築く
- 「あなたも大変なんですね」と共感から始める
- 生活保護や育児手当、母子家庭支援など、経済的な負担を軽くするサポートも、子どもへの関心を取り戻すきっかけになります
親に余裕がなければ、子どもを守ることはできません。
だからこそ、家庭への支援体制は「子どもを守る第一歩」なのです。
④ 親の「孤立」を防ぐつながりづくり
子どもを取り巻く問題の多くは、親の孤立から始まっているといっても過言ではありません。
・誰にも相談できない
・助けてほしいと言えない
・「迷惑をかけてはいけない」と思い込んでいる
こうした親の“見えない壁”を崩すには、こちらから声をかける、つながりをつくることが必要です。
- 子育てサロンや地域の交流会
- LINEやSNSでの匿名相談
- 学校や地域での「ゆるいつながり」の仕組みづくり
そして何より大切なのは、
「助けを求めてもいい」
「一人じゃなくてもいい」
というメッセージが、ちゃんと届く社会にしていくことです。
⑤チームアプローチの視点を持つ
親の価値観が変わらなければ、子どもを適切な場につなげることは難しい――。
だからこそ、「一人の支援者」だけでなく、学校・行政・地域・福祉などが“チーム”となって関わる姿勢が重要です。
- 保健師とスクールソーシャルワーカーの連携
- 学校の先生と民間支援団体との橋渡し
- 地域住民からの情報提供と見守り
一人では難しくても、チームなら“届く”関わり方ができる。
それが、子どもと家庭を守るカギになります。
放課後・居場所支援に関する公的機関と相談窓口
活動内容 | 公的機関・制度名 | 主な役割・内容 | 相談・申請先 | 備考 |
---|---|---|---|---|
子ども食堂支援 | 各自治体の福祉課/ 全国こども食堂支援センター「むすびえ」 | 子ども食堂の立ち上げ支援、助成金案内 | 市区町村役場「福祉課」 むすびえ公式サイト | 企業協賛や地域連携あり |
放課後子ども教室 | 文部科学省 地域学校協働活動推進事業 | 学校施設を活用した地域との活動 | 市区町村の教育委員会、学校経由 | 体育館や図書室の活用もあり |
放課後児童クラブ | 厚生労働省 放課後児童健全育成事業 | 学童保育、就労家庭の支援 | 市町村の子育て支援課、こども家庭課 | 就労証明が必要/所得に応じ助成あり |
公民館・図書館の開放 | 教育委員会/生涯学習課 | 学習や地域活動の場として開放 | 各自治体の生涯学習課・教育委員会 | 予約制・使用申請書が必要 |
フリースクール・学習支援 | 民間NPO法人・社会福祉協議会 | 不登校や困窮家庭の子ども支援 | 地域の社会福祉協議会、NPO支援団体 | 無料や低額、支援員あり |
地域子育て支援拠点 | 厚生労働省 地域子育て支援拠点事業 | 親子交流・相談・居場所の提供 | 市町村の子ども家庭総合支援拠点 | サロン・講座など多様な支援 |
ひとり親家庭支援 | 各自治体の子育て支援課 | 生活・教育費補助など | 市町村の母子父子福祉担当窓口 | 放課後活動費への助成もあり |
子ども相談・通報 | 文部科学省 子どもSOSダイヤル | いじめ・虐待・悩み相談 | 全国共通:0120-0-78310 (なやみ言おう) | 子ども本人・保護者いずれも可/SNS対応あり |
誰かの子どもが“うちの子”になる前に
他人の子に関わるのは勇気がいることかもしれません。
でも、放置子の背景には、家庭だけではどうにもならない事情があることも多いのです。
- 見守る
- 声をかける
- 地域の支援につなげる
その小さな一歩が、子どもの未来を大きく変えるかもしれません。
おわりに|放置子は「社会全体の課題」
放置子の問題は、親だけの責任ではなく、私たち大人一人ひとりの関わり方が問われる社会の課題です。
困っている子どもがいたら、「自分にできることは何か」を考えてみる。
その気づきこそが、子どもを守る第一歩です。
ラッフィのひとこと
「ひとりでいる子には理由があるんだよ。その声が大人に届くといいな。」

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